東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)61号 判決
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで原告の主張する取消事由について検討する。
(一) 取消事由(一)について
原告は、本願発明の拡散装置においては、引用例のものに比べて径が著しく縮少された拡散管をケーシング内に、その長さ方向に沿つて多数配置することが可能となり、有効拡散面積の増大という効果をもたらしたと主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第一号証によれば、本願発明の明細書における詳細な説明には、拡散管を多数配置すること、これによつて有効拡散面積の増大をはかることに関しては一切記載されておらず、本願発明の目的は後に認定するようにこれとは全然別箇のところにあつて、ただ拡散管の個数については単に複数とのみ記載されていることが認められる。したがつて、本願発明においては拡散管は複数個配置されれば足りるのであつて、必ずしもそれが多数配置されることを要しないのである。
原告は本願発明においては拡散管を多数配置することが可能になつたと主張するところ、その根拠は実施例に管の内径は約〇・〇五七吋ないし〇・二五吋とある点に求められるが、ケーシングの大きさについてなんら記載がないから、果して管が多数となるのかどうか必ずしも明らかではない。仮に多数となるとしても、これは補強材として巻線スプリングを使用することを前提としていることが成立に争いのない甲第一号証によつて認められるが、巻線スプリング以外の補強材を用いた場合も果して管の内径が前記のようになるのかどうか、したがつてまた多数管の配置が可能となるのかどうかは、必ずしも明らかではない。
他方、引用例においては図面上拡散管は一個であるけれども、成立に争いのない甲第三号証によれば、拡散管が一個でなければならないとの限定は見当らないから、これを二個、三個配置することも可能であると考えられ、このことは原告も認めるところである。引用例においては拡散管の管径、ケーシングの大きさに関してなんら記載がないから、拡散管を多数配置することが不可能かどうかは必ずしも明らかではないといわなければならない。
してみれば、本願発明においては常に拡散管を多数ケーシング内に収容することが可能であり、引用例においてはそれが単数ないし二、三個に限られることを前提とする原告の主張は、この前提が容認できない以上失当であるといわなければならない。
(二) 取消事由(二)について
(イ) 前記甲第一号証によれば、本願発明の目的は水素の拡散管が使用時に受ける温度と圧力によつてゆがんだり扁平になつたりすることを管内に補強材を入れることによつて防止し、これにより水素収率を維持することにあることが認められる。
一方、前記甲第三号証によれば、引用例においても補強材の目的が、拡散管の扁平化防止の点にあると認めて差支えない。
してみると、本願発明の目的とする拡散管の扁平化防止およびこれによる水素収率の維持の作用効果において、補強材としてラセン状に巻いた金属の線又はストリツプを用いる本願発明と多孔質の陶器又はアランダムを用いる引用例とは差異がないことになる。
原告は、本願発明では拡散管と補強材とが実質的に線接触するので、面接触をする引用例との間に水素拡散の効果の点で差異があると主張する。
しかしながら、前記甲第一号証によれば、本願発明の明細書のどこにも管と補強材とが線接触する趣旨の記載はないのみならず、本願発明で用いられる補強材の具体例としてねじれた金属テープ又は金属テープが巻線スプリングとならんで挙示されていることが認められる。そして、金属テープを補強材として用いた場合には、これと管とは面接触するのであつて、実質的に線接触するとはいえないことが明らかである。
原告は、本願発明の補強材たるラセン状に巻いた金属の線又はストリツプの「ストリツプ」という用語を「テープ」と解することの不当をいうが、ストリツプもテープもそれらがいくらかの幅を有する細長い金属材料を意味することは顕著な事実である。そして、前記甲第一号証によれば、特許請求の範囲には「ラセン状に巻いた金属の線又はストリツプ」と併記され、発明の詳細な説明にはその具体例として「巻線スプリングもしくはねじれた金属テープ」「ねじれた針金もしくはテープ」「巻線スプリングもしくは金属テープ」と併記されていることが認められるから、金属の線の中には巻線スプリングが、ストリツプの中には金属テープが含まれると解するのは極めて当然なことであるといわなければならない。
してみると、本願発明において、拡散管と補強材とが線接触のみするということはできず、これに反する見解にたつて水素拡張の効果の差異をいう原告の主張は、その前提を欠くからこれまた採用することができない。
(ロ) さらに原告は、本願発明の補強材料においては、水素ガス透過に対する抵抗が皆無であるのに対し、引用例の補強材料では抵抗が極めて大きく、この点両者の間に差異があるので、本願発明と引用例との間には効果上水素拡散能の点において差異がある旨主張する。
しかしながら、前記甲第一号証によれば、本願明細書のどこにも、水素ガス透過に対する抵抗が皆無である趣旨の記載はないことが明らかである。のみならず、本願発明における補強材は、前記のとおり巻線スプリングのほかに、いくらかの幅を有するストリツプないし金属テープでもよいのであり、後者の補強材を用いれば、当然のことながら、それだけ抵抗が大きくなるのであつて、抵抗が皆無であるとはいえない。
他方引用例における補強材たる陶器は、多孔質であり、陶器が機械的強度に劣り、ガス透過に対する抵抗を小さくするにつき限界があるにしても、その多孔の態様次第によつては、抵抗をかなりの程度に小さくすることは、あながち不可能とはいえない。しかも拡散管は水素ガスの透過が本来の役割であり、陶器により拡散管を補強する以上、多孔質の陶器につき、抵抗を小さくする配慮が当然加えられていると考えるのが相当である。したがつて引用例の場合水素ガス透過に対する抵抗が必ずしもきわめて大きいとはいえない。
そうすると、水素ガス透過に対する抵抗が本願発明では皆無であり、引用例ではきわめて大きいとは一がいにいえないので、両者の間に格別の差異のあることを前提とする原告の主張も採用に値しない。
三 以上のとおり審決には、原告主張の違法はないから、原告の請求は失当として棄却する。